科学立国へ 夢ふくらむ快挙

若者たちの“理科離れ”解消の契機に

ノーベル賞連続受賞

 「科学技術立国」への夢が膨らむ連日の快挙だ。心から祝福し、喜びを分かち合いたい。

 一挙に4人の日本人ノーベル賞受賞者が誕生する。

 物理学賞は米シカゴ大学名誉教授の南部陽一郎氏、高エネルギー加速器研究機構名誉教授の小林誠氏、京都大学名誉教授の益川敏英氏。3人同時の受賞はもちろん初めてのこと。日本の理論物理学研究のレベルの高さを改めて世界に印象付けた。物理学賞独占のニュースに列島中が沸き返る中、翌日には化学賞も日本人研究者に決まった。米ボストン大学名誉教授の下村脩氏。米国の研究者2氏とともに贈られる。

 日本人のノーベル賞受賞は、2002年の小柴昌俊氏(物理学賞)と田中耕一氏(化学賞)の同時受賞以来6年ぶり。これで各賞合わせて16人となった。

 南部氏ら3氏は、すべての物質を形づくる素粒子の研究で決定的な役割を果たした。スウェーデン王立科学アカデミーは、その成果を「物質と宇宙の理解に革命を起こした」と絶賛している。一方、下村氏の受賞理由は、「緑色蛍光たんぱく質(GFP)の発見と発光機構の解明」。その成果によって、脳の神経細胞の発達過程や、がん細胞が広がる過程などを生きた細胞で観察できるようになった。下村氏が生命科学の発展に果たした貢献は計り知れない。

 感心させられるのは、これら画期の成果が誕生するまでの4氏の悪戦苦闘ぶりだ。その輝かしい業績もさることながら、「飽くなき科学探求の精神」にも敬意を表せずにはいられない。

 例えば、下村氏が発光するクラゲから初めてGFPを取り出すことに成功したのは1962年、ほぼ半世紀前にもさかのぼる。以来、これまでに採ったクラゲは85万匹にも上るという。

 南部氏も、物質の究極を「粒」ではなく「ひも」とする、いわゆる「ひも理論」など斬新な素粒子理論を60年代から矢継ぎ早に発表し続けてきた。素粒子論に新たな地平を開いたとされる「小林・益川理論」も35年前、俊英2人が昼夜を忘れて研究室で熱い議論を重ねた結果だ。

基礎科学重視の政策を

 若者たちの科学離れ、理科離れが言われて久しいが、若い人たちには4氏の研究成果のみにとどまらず、その壮烈な“生きざま”にも学び、“科学する心”の醍醐味を知ってほしい。

 政府も、今回の快挙を機に、科学技術政策の見直しに着手すべきだ。

 すでに多くの専門家が指摘してきたように、わが国の科学技術予算は、ともすれば実生活にすぐに役立つ応用科学や、情報通信など時流に乗った研究に偏って投入されてきた。だが、日本が真に科学技術立国を目指すなら、科学全体を底上げする基礎科学研究に十分な資金を投じる必要がある。

 「目先の経済効果に捉われない、腰の据えた科学政策の展開を」――。4氏の快挙にはそんなメッセージも込められている。
(公明新聞:10月10日)