定額給付金 景気に効果

経済アナリスト・獨協大学経済学部教授 森永 卓郎 氏

定額給付金を含む第2次補正予算の財源特例法が4日成立し、各市区町村では給付に向けた準備が本格化します。ここでは、経済アナリストで獨協大学経済学部教授の森永卓郎氏から公明新聞に寄せられた原稿を紹介します。


減税で恩恵幅広く
公共事業より優れた面も


 定額給付金への逆風が続いている。

 2月23日の毎日新聞世論調査によれば、定額給付金を「評価しない」国民が73%に達している。定額給付金には、低所得者の生活困窮を救うという社会政策の面と景気対策という経済政策の両方の役割がある。

 主として非難の対象になっているのは、「景気対策として効果がない」という批判なので、景気対策としての定額給付金の意味をここでは考えよう。

 景気が悪化したときに、景気を回復させる手段は、金融政策と財政政策がある。財政政策は、基本的に公共事業と減税の二つだ。定額給付金は税金を払っていない人にも与えられる減税の一種だ。景気対策は、財政政策と金融政策が併用されるのが一般的だが、今回のように景気が急速に悪化したときに緊急対策として行う施策としては、私は公共事業よりも減税の方が優れていると考えている。

 その理由は第一に、効果の及ぶ範囲だ。公共事業は一次的には建設業者に恩恵をもたらすが、減税は国民が支出した分野に恩恵がもたらされるので、幅広い産業に最初から効果が及ぶ。

 第二は、効率性だ。公共事業を打つ場合には、事業の必要性について厳密な審査をしないと無駄な投資がなされてしまう。意味のない道路や施設を作ると、それを壊すために費用がかかるので、二重の無駄が発生してしまうのだ。その点、減税であれば、国民自身が慎重に使途を考えるので、無駄がでる可能性がほとんどない。

 第三は、利権との関係だ。公共事業を大量に打つと、それが利権の温床になる可能性がある。入札で官製談合が行われたり、特定の業者に有利な発注条件が決められ、そこに政治家が介入する可能性があるのだ。その点、減税であれば、財政支出はすべて国民に直接行くので、利権の温床になる可能性はゼロなのだ。

 また、減税を行うということは、世界的にみてもごく普通の景気対策だ。実際、オバマ大統領が決めた景気対策も4割が減税に振り向けられる。

 定額給付金の抱える数少ない問題点は、その規模が小さすぎるということだろう。いまの日本の不況は、多くの国民が先行き不安で萎縮してしまっていることが主因になっている。国民の閉塞感を吹き飛ばすことは、もはや政府にしかできない。

 しかし、そのためには1人1万2000円という定額給付金の額は、あまりに小さいのだ。私は、1人当たり数十万円の定額給付金を支給すべきだと思う。財源は埋蔵金でも政府紙幣でもよい。赤字国債でもよいだろう。景気が戻れば、後で税収として回収できるからだ。
(公明新聞:3月5日)