岩手県沿岸北部地震

東北地方の明日、25日は雨の予報が出ております。二次災害の恐れもあるとの事です。
被災された方々に心からお見舞い申し上げます。
公明党本部は24日午前、「公明党岩手県沿岸北部を震源とする地震対策本部」を設置しました。
今回の地震は午前0時半頃に起こりました。皆さんの寝室に倒れてきたり、落ちてきたりするものはありませんか?阪神淡路大震災でも、多かったのが箪笥などの家財道具の倒壊による圧死です。まずは生き残ることが大事です。今一度ご確認を!


「あえて言う『後期高齢者医療制度』は絶対に必要だ」<4>
特集して、はや4回目。今回はチョット長いですが、諸外国との比較です。

「あえて言う『後期高齢者医療制度』は絶対に必要だ」<4> 櫻井よしこ週刊新潮2008/7/16)

日本が長寿世界一の誉れを得て久しい。だが、ほぼ同時に我が国は、際限なく伸び続ける医療費に頭を悩ませることとなったわけだ。が、高齢化社会の到来は日本だけの問題ではない。先進各国は、迫りくる高齢化と医療費というテーマにいかに対応しているのか。

日本を含め、欧米先進国、30カ国で構成するOECD経済協力開発機構)の調査によれば、2006年時点で、日本人の平均寿命は82.4歳、世界一の長寿国である。OECD調査で日本は、1984年以来20年以上、長寿世界一の座を保ってきた。
他方、日本の医療費をGDP比でみると、05年で8.2%。米国の15%、10%を超えるドイツ、フランスと較べて顕著に低い。先進7カ国中、最も少ない水準で、世界一の長寿大国を実現してきたのだ。この日本の医療を、2000年、WHO(世界保健機関)は総合評価で世界一と定義した。
医療世界一の日本で、いま、医療費の増大により医療保険が危機的状況に陥っている。打開のために導入された後期高齢者医療制度を巡って激しい反発が起きている。諸外国の医療制度に詳しい東京大学大学院教授の武川正吾氏は言う。
「経済学者のレスター・サローは、『どんな資本主義者でも医療においては共産主義者になる』と言っています。医療の現場においては平等志向が強く、お金を持っている人がそれ相応の医療を受けるという資本主義的な考え方がなかなか受け入れられがたい。そのため、医療費は今後も上がっていくと予想されます」 こうして噂していく医療費は、先進国ではどこでも似たような曲線を辿ると、犀川哲夫国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部長は語る。
「医療費に介護費がどの程度混入しているかによって若干違いますが、先進国の人口1人当たり医療費は5〜15歳で最も低く、高齢期のどこかでピークを迎え、それ以降低下するというパターンは共通しています。
日本はいま、医療費のうち、3分の1近くを75歳以上の高齢者が占めていますが、これほどの先進国でも似たり寄ったりで、日本の高齢者だけ特別高い医療を施しているわけではないのです」
ではなぜ、日本は他国に余り例のない、高齢者を別枠に入れた制度の導入を迫られたのか。理由は「美濃部亮吉都知事の下で老人医墳費が無料となり、国がそれに追随し、その結果、医療費がかさんだこと」だと、氏は推定する。
以来、種々の制度改革が行われてきた。そしていま、私たちは、高齢者医療のための負担が増え続けることに若い世代が耐えきれなくなっている局面に立たされている。
「このことを単純化して言えば、日本人が社会連帯が嫌いだと言ったに等しいのです。しかし、社会連帯を基盤としなければ、社会保障制度は成り立ちません」 と府川氏は強調する。
問題視されている後期高齢者医療制度が本当に必要なのかどうか、その是非について深く考えるためにも、国際社会、というよりも、豊かになった国家や人類が、高齢化と医療にどのように取り組んでいるかを知ることは役立つはずだ。
 先進国の医療制度は、大別して2つに分かれる。日本やドイツ、フランスのように、社会保険を軸とする国々、英国やスウェーデンなど税金を医療費の主財源とする国々、さらに公的医療制度をほとんど持たず、民間医療保険を主軸にする米国、の3グループだ。まず、日本の対極にある米国の事情を見てみよう。
先進国の中で、高齢者に別建ての医療制度を持つのは日本だけだ。米国にも65歳以上を対象にしたメディケアという公的医療保険があるが、それは、ごく一部の医療費をカバーするだけで、米国では医療費は個人が契約する民間保険で賄われるのが通例だ。
これまで21年間にわたり、海外の介護、医療事情を視察してきたハンディネットワークインターナショナル社の春山満代表が語る。
「米国には400種類を超える医療保険の商品があります。自己負担の割合から、診察科目、リハビリの日数まで、個々人が費用と見較べながら選びます。たとえば自己負担が1割コース、3割コース、5割コースなどと並ぶ中から、本人が選択するわけです。5割コースは保険料が安い代わりに、病気になったときの自己負担が大きいタイプで、若い人向けです。病気になったときの自己負担が1割のコースは、保険料が高くなる。
こちらはお年寄り向き。自分の年齢が上るにつれて、リスクに応じた商品を選ぶのです」
武川教授が語る。「米国には65歳以上を対象にしたメディケアと本当に貧しい人を対象としたメデイケイド以外に、公的な保険制度がなく、医療費が市場原理に晒されています」
医療現場に自由競争
その結果、入院すると、加入している保険会社が病院と折衝を始め、保険が利用出来る治療と、出来ない治療を話し合う場面さえ珍しくなくなる。
「医療現場に自由競争の原理が持ち込まれた結果、政府による医療費の管理・抑制が難しくなっています。よい医療にはそれなりの報酬を払うという原則と、医療技術が高度に発達し、医療費も非常に高くなっている現状のために、米国の医療費は結果として、06年度でGDPの15.3%を占めました。この割合は先進国の中でダントツ1位です」
米国のGDPは飛び抜けて巨大だ。06年で13.2兆ドル、約1531兆円にも達する。2位の日本が509兆円、3位のドイツが335兆円。いかに米国のGDPが巨額であるか、その医療費が巨額であることか。
今年3月、連邦政府下町公的機関は、10年後に医療費がGDPの20%を占めると予測した。米国の医療費は伸び続けていくのだ。
武川教授がいう。
「65歳以上が加入出来るメディケアがあるといっても、あくまで最低限の保障をするもので、最先端医療を求めることは出来ません。米国では、先進的医療を受けるために破産した例は枚挙に過がないのです。大手術を必要とする病気を患うと、少々の貯金ではどうにもなりません。例えば、小児科医として育児書が世界的ベストセラーになったスポック博士という方が、85歳で脳梗塞を患いました。彼でさえ、高額医療費を払えず、親戚に助けを求め、それでも足りずに世界中に募金を呼びかけたのです」
スポック博士の育児書は、戦後日本の育児に長年、大きな影響を与えてきた。幅広く読まれた同書の著者さえも米国の高額医療費を払いきれなかったというのだ。
米国流の医療制度よりも日本人の価値観に近いのは欧州の制度だと言われる。その一例として英国の場合を見てみよう。
 英国は1948年からNHS(国民保健サービス)を開始、医療費の8割を税金で、約2割を社会保険料で賄ってきた。国民全員が所得に応じて保険料を支払う点で日本と類似する。また、GDPに占める医療費の割合は約8%である。
 英国の医療事情に詳しい日本福祉大学の近藤克則教授が説明した。
「英国は、掛かりつけ医の制度が徹底している国です。国民全員がそれぞれ1人の総合医を掛かりつけ医として登録しています。掛かりつけ医の紹介状なしには、命に関わる状態でなければ、病院で診てもらうために長時間得たねばなりません。
同制度のメリットは、情報の一元管理が出来ること。一人の患者さんを循環器、消化器、関節など、臓器別に診察するのではなく、総合的に診られます。臓器毎に異なる医者に診察を受けるよりも、他の病気のことも考えて診てもらえ、同じことを繰り返して説明することもなくなります」
掛かりつけ医(GP)は登録患者数に応じて、包括的な報酬を受け取る「人頭払い制」が基本であった。
「この制度の欠点を挙げると、能力不足ややる気のない医師を掛かりつけ医とした場合、目も当てられない状況に陥ることです。誤診されたり、必要時に病院に紹介状を書いてもらえなかったりすることもあります。患者さんを2〜3人多く診療しても、収入はさほど変わらないので、予約を先送りされたりすることもありました」
但し、患者はいつでも掛かりつけ医を変えることが出来る。NHSを利用する限り、患者の自己負担は2%程度でごく軽い。しかし、外来も入院も日本では考えられないほど待たされる。
前出の府川氏が語る。
「英国はそんなものではありません。GPを経由しないと病院医療は受けられず、GPに病院を紹介してもらうのに何日もあるいは何カ月も待たされます。理由は簡単です。主な財源が税金で、医療費の上限が決まっているからです」
かつてサッチャー首相が、医療費を削減し、英国の医療費はGDP比6%前後に止まっていた。90年代後半、英国の医療は第三世界並みと言われるほど荒廃した。再び、近藤教授が説明する。
「97年に就任したブレア首相は待ち時間を入院では26週間以内に、緊急患者の診察では4時間以内にすると公約しました。また、10年で医療費を倍にし、医学部定員や重症者の病床数も増やしました」

富裕層のプライベート病院

ブレア改革は成功を収めたと評価されている。6カ月以上の入院待機患者は00年の25万人から04年段階で10万人に減った。ブレア政権は英国の医療制度をある程度、改善した。だが、人間の老いと痛い、生と死、それを支える経済原理についての彼らの考え方が実に厳しいものであることも見逃してはならないと、武川教授は強調する。
「英国社会には効果が上がらない医療は行わないという考え方があります。たとえば、年間500万円近くの費用がかかる人工透析です。英国では50歳以上の場合、新規に透析を開始するようなことはしないのが暗黙の了解です。英国人にとって苦渋の選択だと思うのですが、日本ではちょっと考えられないことですね。国民性の違いもありますが、国民の税金で賄っていて、医療費全体のパイが決まっているからこそ、一番効果があるところに医療費を投入したいという合意があるのでしょう」
日英両国を較べて春山氏が指摘した。
「ブレア政権下では英国の医療費を10%に引き上げることが至上命題とされました。いま8%で無駄遣いといわれているのが日本です。この違いの意味を私たちは考えるべきです」
医療費の使い方を厳しく律する状況下で、英国はいわゆる二階建医療を実施してきたと、春山氏は語る。
「英国型の特徴は、パブリックなNHS以外に、プライベートなクリニックと病院があることです。こちらは待ち時間はゼロです。しかし、初診料だけで3万円は下りません。それでも、富裕層のほぼ全て、それに中間層も加えて、プライベートを選んでいます」
英国の治療の現場には、経済と医療についての、極めて現実的な考え方がある。
日本と似た、国民皆保険制度を取るのがドイツである。ドイツの事例をお手本にしたのが、戦後日本の皆保険制度だった。GDPで、ドイツは日本に次ぐ世界第3位だが、やはり過去、医療費の高騰に頭を悩ませた時期があった。
「ドイツの老人ホームの入所費用は最初、税を財源として運営されたのですが、経済的に立ち行かなくなり、95年に介護保険制度を実施しました。日本で00年に導入された介護保険もドイツを手本にしたものです」と武川教授。日本福祉大学の近藤教授も指摘する。
「両者は似てはいますが、ドイツでは、高額所得者が保険から離脱することや、それ以外の人でも、入る保険を選べることを認めているために、日本と同じ国民皆保険とは言えない面もあります」
一方、春山氏は彼我の相違の根本を次のように語る。「日本と他の先進国でもっとも異なる点の一つは、日本の病院の一部が、病気を治して自宅に帰る場所ではなく、患者さんの病気が治らないのを知った上で、死ぬまで暮らす場所になっていることです。米国や欧州には、現在、日本に35万ベッドもある療養病床は殆んどありません」
日本の課題のひとつはこの医療と介護の混在だが、春山氏は痒いところに手が届くようなドイツの介護システムについて語った。
「2000年の介護保険制度設計の折り、日本が学ぼうとしたのがドイツの制度です。当時、ドイツの要介護の分類は、軽度、中度、重度と3段階。いまの日本のように7段階もありません。重度の要介護の場合、月額約30万円分の介護サービスを受け取ることが出来ました。日本と異なるのは、受け取り方を当事者が選べる点です。介護サービスを外部に委託すれば、30万円全額分を受け取れます。しかし、在宅で家族が介護する場合、約半額を現金で支給するのです。素晴らしいのは、在宅を選んだ場合、1年に4回、1週間のバケーションが家族に与えられることです。その間の介護は、国がすべて引き受けて、家族のリフレッシュを支援するのです。また、介護を担う家族が体を壊した時は、労災認定します。この素晴らしい制度を知った日本の厚労省は検討の俎上に載せました。しかし、医師会や業界の猛反発や、?現金を渡すと娘が介護をしないでポケットに入れてしまうかもしれない″などというさもしい理由で、国にとっては支出が半減するこの制度は、日本で実現しなかったのです」

仏の償還払いシステム

氏は、海外の医療制度には、日本が取り入れる価値のあるアイディアがいくらでもあるという。一医療費抑制で興味深いのがフランスの償還払い制度だ。
「フランスは窓口での患者負担が原則25%。3割負担の日本と似ていますが、支払い方は決定的に異なります。例えば、1万円分の治療を受けた時、日本なら窓口で3000円を支払います。しかし、フランスでは、ここで1万円を払い、4週間前後で7500円が戻ってきます。結果は同じでも、患者さんの心理はガラツと変わります」 後に償還金が戻されるにせよ、1万円を支払った患者は、レセプトを検分するようになり、結果的に、無駄な医療の抑制につながるというのだ。
厚生労働大臣尾辻秀久参議院議員は、「欧州では、国民に高い負担を課し、手厚い医療と福祉を実現しています。しかし、その欧州でさえ、国によっては人工透析の保険適用をある年齢で打ち切ったり、患者に食べる意思がないと、点滴を打たなかったりと、彼らの哲学に基づく割り切った治療を行っています」と述べ、日本国民の選択の時が近づいていると強調する。日本は欧州よりもさらに高齢者医療費がかかるはずであること、これまで、低負担で高福祉を実現してきたが、もはやそれを続けることは難しく、米国型か欧州型か、新たな日本型を工夫しなければならないと、強調する。
各国の事例は、どの国も各々の問題を抱えており、国民の総意を反映する医療保険制度の構築に工夫を重ねてきたことを物語っている。日本の課題は日本人の文化的特性に基づいて、介護、医療制度を支える合理的な経済負担の原則をどう組立てていくかである。重要なのは、社会連帯の袷を維持することだ。それなしには社会保障制度は医療も介護も、年金も教育も、成り立たない。その観点から税負担の増加も考えなければならないだろう。同時に、全員が社会保障の輪を存続させるために応分の負担を引き受けることだ。何よりも新しい日本型制度を作るためにこそ、政府も政治家も、きちんと国民に説明しなければならない。