風評被害防ぐ情報の共有を

「世界的にない」肉や卵からの感染例

鳥インフルエンザ


 愛知県内のウズラ農場で高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出された問題で、農林水産省は10日、同県内で3例目の発生を確認したと発表した。いずれもH7亜型の弱毒タイプという。同県はこれまでと同様に、この農場の周囲半径5キロメートル内の家きんや病原体が付着する恐れのある物品の移動を制限した。

 相次いだ鳥インフルエンザウイルスの検出による、飼養農場や周辺農場の打撃は大きい。処分されるウズラや卵、飼料などについては出荷評価額の8割を国が補てんするほか、出荷が停止された周辺農場も含めて再生産が可能になるような支援策が整えられているものの、精神的なダメージを考慮したケアもさらに必要だろう。

 家きん飼養農場における衛生管理の改善は進んでいる。昨年の全国一斉調査の結果で、全国約1万カ所の農場うち適切に衛生管理が行われている農場は95%に達した。農水省によると、先月に確認された1例目の発生農場の衛生管理も「適正だった」としており、再発防止に向けて、早急な感染経路の解明が待たれるところだ。

 弱毒タイプの場合、死ぬなどの被害が出にくく、ウイルス感染の有無は分かりにくい。今回は、韓国での発生と国内の野鳥からのウイルス検出を受けて昨年9月から、ウズラやアヒル七面鳥まで調査対象を拡大した定期モニタリングによって判明した。過去の教訓が生かされていると評価したい。

 一方、残念なのは、ウズラの販売停止などの風評被害が今回も出ていることだ。8日までに農水省がまとめたところでは、全国約3万の鶏肉やウズラを扱う店舗などを調べたところ、ウズラの卵の販売停止や「愛知県産ではない」などの不適切な表示をしていたケースが273件あった。中には、給食用の取引停止を求めるなどの例もあり、すべて撤回させたという。


混乱招く認識不足


 こうした風評被害を防ぐため食品安全委員会は、鶏やうずらなどの肉を食べることによって、人が感染することは「考えられない」と訴えている。

 理由の一つは、衛生管理が徹底していること。鶏肉や鶏卵などは、販売前に次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌剤などで洗浄されているからだ。また、万が一にもウイルスが付着した肉を食べても(1)酸に弱く胃で不活性化する(2)人の細胞に入り込むための受容体が異なる(3)通常の加熱処理で容易に死滅する――としている。

 実際、新型インフルエンザに変異する可能性が指摘される強毒タイプの「H5N1型」のウイルスを含めて、鳥肉・卵を食べたことによる人への感染例は世界的にもない。

 認識不足の過剰な「危機管理」は無用な混乱を招く。殺処分はウイルスのまん延を防ぐ「念のため」の措置であり、生産・販売業者はもちろん、消費者もともに、正確な情報と知識を共有し冷静に対応したい。
(公明新聞:3月12日)