「緩和」へ相次ぐ異例の措置

財務の健全性維持など新たな課題も

日銀の金融政策


 金融市場が波乱の余地を残し、景気底割れかの正念場を迎える中、日銀の白川方明総裁が誕生して1年が経過した。

 戦後最大の経済危機に見舞われ、大幅な需要不足に陥った日本経済を立て直すには、政府支出を増やし、民間需要を掘り起こす施策が欠かせない。政府・与党が10日、環境産業の育成などを軸とした新経済対策を打ち出したのもそのためだ。

 だが、一方で“経済の血流”たる金融の手綱も緩めてはならない。まして今は、決算発表で企業業績の赤字が相次ぐ「5月危機」など、景気底割れへの“火種”がくすぶっている局面だ。日銀が担う金融政策の余地が狭まりつつあるだけに、日銀が迎える試練はこれからが本番となろう。

 昨年9月の「リーマン・ショック」後、激しさを増す危機の津波に対し、防衛線を張る日銀の対応は苦慮の連続だった。

 利上げ志向が強いとされ、昨年10月に米欧が協調利下げに踏み切った際も、同調しなかった白川総裁だが、その後は円高や株安を背景に、利下げを断行。政策金利を年0・5%から0・1%にまで下げた。

 これにとどまらず、ゼロ金利が目前に迫ると、CP(コマーシャルペーパー、短期資金の調達を目的とする約束手形)や社債の買い取りなど金融緩和へ「異例中の異例」(白川総裁)の措置を相次いで打ち出した。

 日銀が買い取るCPや社債は格付けが高いものの、これらの資産価値が下がれば、その損失を被るのは日銀だ。金融市場への資金供給を大胆に行うため、中央銀行自らがリスク(危険性)を抱える意義は決して小さくはない。

 ただ、一国の中央銀行が過大なリスクを抱え、巨額の損失を被る事態となれば、日銀や通貨への信認が急落し、経済全体が大混乱する危険性も否定できない。財務の健全性を確保しつつ、いかに市場に潤沢な資金を供給するか。日銀が直面する課題は重い。

 デフレ(物価の下落が続く状態)の進行も気掛かりだ。昨年の物価高から一転し、最近は物価の下落が目立ち、上昇の兆しは見えない。物価の下落は消費者にとって朗報に聞こえるが、企業収益の悪化や、それに伴う雇用調整や個人消費の低迷などをもたらし、景気に冷や水を浴びせかねない。今後もこうした動きを注視する必要がある。


同意人事の空席防ぐ


 昨年の日銀総裁人事をめぐっては、国会で民主党が無責任にも不同意を連発し、一時、総裁空席の異常事態を招いたことは記憶に新しい。当時の混乱が尾を引き、いまだ日銀審議委員1人は空席のままだ。

 そこで、自民、公明の与党両党は10日、同意人事の空席回避へ、後任が決まるまで前任者が職務を継続できる法案を議員立法として衆院へ提出した。同意人事を政争の具として悪用する事態を防ぐためにも、法案の成立に全力を注ぎたい。

(公明新聞:4月22日)