「万一の事態」に万全を期せ

長期戦覚悟で中長期対策の確立も

新型インフルエンザ


メキシコ発の新型インフルエンザの“勢い”が止まらない。

世界保健機関(WHO)などによると、感染者は世界各地に広がり、1000人を突破した。アジアでも香港と韓国で相次ぎ感染者が出た。

恐れていた2次感染も目立ち始めている。ドイツでは、メキシコ旅行帰りの感染者を看護していた女性への感染が確認された。韓国でも、感染者と行動をともにした別の人物に感染の疑いが出ている。

日本も無縁でいられないことは言うまでもない。

幸い、国内での感染者はまだ確認されていない(4日正午現在)が、「いずれ上陸する」との前提に立って、「万一の事態」への心構えを固めておく必要があろう。うがい、手洗いの励行やマスクの着用など、一人一人が「非常事の基本的な備え」を心掛けたい。

政府も、空港などでの「水際防止」に引き続き全力を挙げるとともに、診察体制や2次感染防止策など、上陸後に備えた態勢を日々チェックし、必要とあれば迅速に見直しを行う態度が重要だ。常に一歩先をにらみ、機敏に先手を打っていってもらいたい。

とりわけ大事なのは、発生時の対応である。患者隔離に手間取ったり治療手順を誤ったりするようなことがあれば、周囲の人に2次感染して、集団感染や流行など最悪の事態につながりかねない。

「危機管理の基本は初動対応にある」との鉄則を改めて確認しておきたい。

折しもゴールデンウイークが終盤に差し掛かり、海外旅行していた人たちの帰国ラッシュが始まっている。国内侵入の可能性がぐんと高まっているわけで、きょう、あすの2日間、もう一段の警戒強化が欠かせない。

空港の検疫態勢は万全か。入国後の健康監視や感染者が出た場合の措置手順に見落としはないか。過剰な対応は逆効果だが、ここは「念には念を」との構えが求められる。


国境を越えた視点で


一方で、新型ウイルスとの戦いは長期戦になるとの覚悟も必要だろう。

約4000万人が死亡した20世紀初めのスペイン風邪は、終息まで足掛け3年を要した。医療技術や医薬品開発のレベルは格段に進歩しているとはいえ、その分、地球は狭くなり、国境を越えた人々の往来は当時の比ではない。「人類共通の脅威」に立ち向かう中長期の対策を早急に確立しなければならない。

具体的には、タミフルなどの治療薬の確保に加え、予防のための新ワクチンの開発を急ぎたい。日本の医療・医薬品開発の技術を総結集するときだ。

途上国への医療支援も欠かせない。WHOが指摘するように、衛生状態がよくない途上国に感染が広がると、事態は一層深刻化し、ウイルス変異を起こす 恐れもあるからだ。各国との情報交換なども含め、国境を越えた視点こそは、中長期戦略の柱と言って過言でないだろう。
(公明新聞:5月5日)