海賊対策の論点 Q&A

「人類共通の敵」にどう対処するか?

政府は国際責任である海洋の安全確保のため、与党の要請に基づき、ソマリア沖・アデン湾での海賊対策のため、海上警備行動の発令による自衛艦の派遣準備を進めている。今回の海賊対策をQ&Aで解説する。

 
 現状
 貿易の99%は海上貿易に依存。海の安全は死活問題
 国連安保理は加盟国に協力を求める決議を4回採択
 被害が急増のソマリア沖・アデン湾での対策が急務

 
 対策
 海賊の阻止は警察の役割。本来は海上保安庁の任務
 しかし、海保には遠洋での長期任務を行う能力なし
 現行法上は海上警備行動による自衛隊派遣が現実的


  Q なぜ今、海賊なのか?

  アフリカのソマリア沖・アデン湾の海賊被害が昨年の秋以降、急増している。これまで海賊被害といえば東南アジアのマラッカ海峡などが中心だったが、日本の海上保安庁の国際協力などもあって現在は被害も減った。

 しかし、ソマリア沖・アデン湾の海賊は東南アジアと違い、銃やロケット弾で武装した凶悪な海賊であり、船員の身代金を取るためなら30万トン級のタンカーまで襲う。特にアデン湾は欧州とアジアをつなぐ要衝の海域であり、国連安保理は昨年、4回の決議を採択し各国に同海域での海賊対策を要請した。すでに17カ国が海軍艦艇・航空機を派遣してきた。

 
 Q 日本への影響は?

  アデン湾は年間2万隻の船舶が航行し、その1割の2000隻が日本関係船舶だ。

 2007年の10月以降、6隻の日本関係船舶が乗っ取られ、そのうち1隻(ケミカル・タンカー)は昨年11月に被害に遭い、23人の船員とともに今も解放されていない。23人の国籍は韓国人5人、フィリピン人18人で日本人はいない。しかし、日本企業が運航事業者になっている「日本商船隊」約2300隻に乗る約5万人の船員のうち日本人は約5%。「日本商船隊」が外国船員に支えられている事実を忘れてはならない。

 日本の貿易の99%は海上貿易に依存している。海洋国家として海の安全に貢献する必要がある。


 Q 何をすべきか?

  海賊は国際法で「人類共通の敵」とされる国際犯罪である。日本では洋上での警察活動は海上保安庁(海保)の任務であり、これまでも外国の海賊対策を支援するため、片道3〜7日の東南アジア海域で活動した実績もある。しかし、片道約20日もかかるアデン湾で長期任務を実施できる巡視船は1隻しかなく、海賊の攻撃に対する防御力も弱いため、事実上、海保では対応できない。

 そのため、海保の能力を超えた事態を支援するために自衛隊に認められた海上警備行動によって自衛艦を派遣し、そこに海上保安官を同乗させて警察任務に当たることが現実的な対応となる。


 Q 海賊行為の実態は?

  身代金が目当て。 航行中の船舶にも乗り込む 民間船舶が自力で行う回避行動はもはや限界


 Q 被害の件数は?

  国際海事局によると、未遂も含めた事件数は、2004年以降、毎年300件前後で、昨年は293件。そのうち111件がソマリア沖・アデン湾に集中し、06年の5倍に上った。昨年被害に遭った船舶すべてが航行中に襲われ、815人が人質になった。


  Q 襲撃方法は?

  海賊の母船から、小型の高速ボート数隻を出して武器で脅しながら近寄り、強引に乗り込む。昨年、世界中の海賊事件で139件の銃器使用があったが、102件がソマリア沖・アデン湾であり、危険性は突出している。

 日本船主協会によると、ひとたび乗船されたら助けようがなく、ジグザグ航行で波を立てて、ボートの接近を阻止するにも限界があるという。


 Q 海賊の根城は?
  ソマリアが海賊の温床だ。暫定政府しかなく統治能力もない。


 Q 航路の変更は?

  日本船主協会によると、この海域を1年間に通る日本商船隊約2000隻が喜望峰を回ると、燃料代と用船料で年間約400億円の損失が出るという。


  Q 国際社会の対応は?

  国連海洋法条約は海賊行為の抑止義務を課す 日本は海賊処罰のための国内法整備が課題に


  Q 国際法が定める海賊対策は?
  日本も批准した国連海洋法条約の第100条は「すべての国は、最大限に可能な範囲で、公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所における海賊行為の抑止に協力する」と、海賊行為抑止のための協力義務を定めている。

 国際法上、公海上の海賊であれば、どの国でも逮捕・訴追・処罰できる。しかし、海賊を取り締まり、処罰する国内法がない国が多く、ソマリア沖・アデン湾でも各国は試行錯誤で対応している。日本も海賊対策の国内法整備が課題であり、現在、政府・与党で議論を進めている。


 Q 各国が実施中の具体的な対応策は?
  昨年、4回採択された、国連安保理決議は、各国に軍艦の派遣などを要請。決議に応じた国は、哨戒活動や、自国関係船舶の護衛活動を実施している。特に護衛活動は効果的で、軍艦に守られた船団が海賊に襲われた例はない。

 国際部隊としては、ヨーロッパ連合が昨年12月から、米国中心の合同海軍部隊が1月から新体制で護衛活動などを行っている。


 Q なぜ自衛隊派遣か?

  重武装の相手に対し各国は海軍艦艇で対処中 逮捕などに備え自衛艦には海上保安官が同乗


 Q 日本の対応は?

  海賊行為は犯罪であるため、対処の主体は第一義的には海上保安庁(海保)になる。

 しかし、海保がソマリア沖・アデン湾で活動するには、(1)長期間連続行動できるヘリコプター搭載巡視船が1隻しかなく常時派遣はできない(2)重武装の海賊に対応できる巡視船もその1隻のみ(3)各国はすでに海軍艦艇を派遣中で、外国海軍との連携行動の実績がない――ことから、現実的に困難である。

 そこで、自衛隊法第82条の海上警備行動による自衛隊派遣が現行法で可能な対処方法になる。


 Q 自衛隊海上警備行動とは?
  海保に対処不可能な事態が発生した場合、自衛隊に、海上での生命・財産の保護や治安維持といった警察活動を支援させること。首相の承認を得て防衛相が命令する。保護の対象は基本的に日本国民の生命・財産に限られるが、活動海域に限定はない。

 政府は現在、与党の要請を受け、派遣準備を進めている。海賊の逮捕・取り調べにも備え、司法警察の任務を遂行できる海上保安官自衛艦に同乗させる。

 海賊対策の国内法が実現すれば、それに基づいた海賊対策に移行する予定。
(公明新聞:2月10日)