円高が及ぼす経済への影響に注視を

ドル安の構造


 ドル安の行方を慎重に見極める必要がある。


 現在、市場では、円やユーロなど、主要通貨に対する米ドルの下落が続いている。自国通貨高を懸念するのは日本だけでなく、欧州でも、景気回復が確実になっていない現段階でのユーロ高で、ドイツやフランスなどの輸出産業に与える影響が懸念され始めている。


 ドル下落の背景には、米国の巨額の経常赤字がある。この経常赤字から発生するドル売りを、米国への資本流入に伴うドル買いで補えていないことが根本的なドル安の要因だ。


 投資資金は、より高い利回りをめざして高金利の通貨に向かいやすい。世界最大の経常赤字国であり、多額の資本流入が必要なはずの米国だが、金融危機への対応として採用された低金利政策は、そう簡単に止められる状況ではない。


 金融政策のかじ取りを行う米連邦準備制度理事会FRB)は、物価の安定とともに、“雇用の最大化”を目標としている。米国の9月の失業率は9・8%で、いずれは10%超えも懸念される現状を見れば、容易に利上げには踏み切れない。


 先日、豪州が主要国に先駆けて、利上げに転じており、世界経済は上向きつつある状況だ。しかし、一方で、世界経済の好転も、ドルの一段の下落を促す要因になりうる。


 ドルは、昨年後半から今年初めにかけて、一時的に買い戻された。これは、金融機関が決済資金を手元に確保しようとしたことと、米国人投資家がリスクを嫌い、投資資金を本国回帰させたことがある。


 景況感が改善すると、投資家のリスク志向は高まる。こうした状況の時、金融危機以前は、低金利の円で資金を調達し、高金利通貨で運用する円キャリートレードが活発化していたが、今では、ドルで資金調達するドルキャリートレードが主流となっており、金融システムの混乱が落ち着きつつある今、いったんはドルに回帰した資金が、再びドルから離れつつある。


国内輸出産業に打撃


 ドル安の主因である米国の経常赤字に関して、先日、米ピッツバーグで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)では、米国の過剰な消費に依存した世界経済の不均衡是正を打ち出した。これが、市場では、米国が輸出拡大を通じて経常赤字を解消するためにドル安政策を取るのではないか、との見方につながり、ドル安基調をさらに促す結果となった。


 構造的な問題を抱えるドルへの不安は根強く、市場では、ドル安の長期化に警戒感が高まっている。


 ドル安は、国内では円高として現れる。円高が過度に進めば輸出産業には打撃となり、安い輸入品が市場に出回れば、国内のデフレ傾向に拍車をかけかねず、その影響は小さくない。


 反転の兆しを見せる日本経済のリスク要因として、ドル安の動向を注視していきたい。
(公明新聞:10月14日)