米の賛成を「核違法」への潮目に

究極の目標を共有し漸進的議論を

核廃絶決議案


 核武装の背景には核抑止論という国家安全保障上の戦略がある。そのため、核兵器廃絶には安全保障政策の大転換がない限り実現は難しい。


 核超大国・米国のオバマ大統領は4月、プラハでの「核兵器のない世界」演説で、現職大統領として初めて核廃絶を明言した。これによって米国の核政策が変更されたわけではない。米国が核廃絶という究極の目標を非核保有国と共有した事実は評価されるべきである。


 核廃絶目標の共有によって、米国は昨年まで8年連続で反対してきた国連総会における核廃絶決議に対し、今年は同決議案の共同提案国になることで賛成の意思を表明した。この核廃絶決議は、1994年以来、日本が主導して毎年提出されている。今回の決議案は15日に国連総会第1委員会に提出され、12月の国連総会で採択される。


 「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意」と題されたこの決議案への賛成は、オバマ米大統領の4月の演説に続く、米国の核廃絶構想への確かな一歩になると期待されている。


 オバマ大統領も「おそらく私が生きている間に達成することはできないかもしれない」と言うように、核廃絶への道は遠く険しい。しかし、まずは核廃絶を究極の目標として世界と共有することから行動を始める以外、確かな方法はない。そして、スケジュールを明確にしながら大幅な核軍縮核拡散防止条約(NPT)体制の強化を実現し、さらに、核抑止論を超えた新たな安全保障政策の確立をめざす必要がある。


 これらは政府間交渉を中心に進められることになるが、同時に、NGOや自治体、企業など世界の市民社会と連携し、「核兵器は、開発・保有・使用ともに違法」との規範意識を国際社会の常識にする運動が要請される。そして、この「核違法」の理念が、核兵器禁止条約として規範化されることで、制度上も思想的にも確かな基盤を持った核廃絶が実現する。


 そのために、まず、今回の米国の核廃絶決議案への賛成が、「核違法」に向けた国際世論拡大への潮目になってほしい。


 もっとも、米国の核政策が近くドラスティックに変わると考える専門家はいない。問題は核抑止論にある。オバマ大統領は「安全保障戦略上の核兵器の役割を低下させる」と明言すると同時に、米国の「核の傘」の下にある同盟国の安全保障も確約した。その上で同盟国に、「核兵器の役割低下」に同調するよう要請したいと述べた。


日本にも核再考の責任


 米国内の議論の集約も大変であるし、日本を含め、同盟国側も自国の安全保障政策と「核の傘」との関係を再考しなければならない。不安定な国際情勢の中でこうした議論を進めるには漸進的な手法しか採れない。


 しかし、核廃絶を共有した上での議論である。一歩一歩、具体案を積み上げることができると期待したい。
(公明新聞:10月20日)