財政悪化への懸念が後押し

債務削減へ政府は早急に具体策示せ

長期金利の上昇


 長期金利の動きが気掛かりだ。新発10年物国債の利回りは、8月中旬から下落傾向にあったものの、その後は上昇に転じ、9日には1・475%と4カ月半ぶりの高水準に達した。市場では、近く1・5%台に乗るとの見方が大勢だ。


 長期金利とは「1年以上の長期にわたる借入金の金利」。代表的な指標は10年物国債の利回りで、これが住宅ローン金利などの目安にもなるだけに、その動向には注意が必要だ。


 長期金利は、景気回復時の資金需要の高まりで上昇する場合もあるが、景気の「二番底」への懸念が根強い今、こうした「良い金利上昇」が起きるとは考えにくい。むしろ、財政悪化への不安に伴う「悪い金利上昇」というのが現実的だろう。 


 事実、鳩山政権が誕生して以来、長期金利の上昇圧力は強い。マニフェストの実現に躍起になるあまり、財政規律が緩んだ事態への警戒感が高いためだ。


 国債や地方債、国の借入金などを含んだわが国の長期債務残高は今年度末で800兆円を超える見通しで、国内総生産(GDP)比は168%と主要国で最悪。国際通貨基金IMF)が3日に公表した世界20カ国・地域の債務残高の見通しでも、社会保障費の増大などで、2014年のわが国の債務残高はGDP比で約2・5倍にも拡大すると予測した。


 今や“火の車”となった財政の立て直しは政府の経済・財政運営の最重要課題だが、実際の対応は実に心もとない。


 その一つが赤字国債の発行をめぐる対応の“ブレ”だ。


 ここにきて、政府内では今年度の税収が大幅に不足する見通しを受け、赤字国債の増発を示唆する発言が目立ち始めた。鳩山首相衆院選中、これ以上、国の借金は増やさないと豪語していたにもかかわらずだ。


 その上、来年度予算概算要求は、一般会計で95兆円と過去最大規模にまで膨張。金額を示さず、項目だけを求める「事項要求」を含めると、実際の額は、さらに数兆円膨らむという。


 政府は来年度の新規国債発行額を今年度補正予算後の44兆円以下に抑えるようだが、恒常的経費の当初予算で今年度(33兆円)より増加するならば、財政規律の緩みは否定できない。


 こうした動きを警戒して、銀行などは国債売りを加速させている。ここで国債の大量増発となれば、国債の買い手が一段と減り、さらなる金利上昇を招きかねない。


国民生活に大きな打撃


 心配なのは景気や財政に対する影響だ。住宅ローン金利の上昇で家計負担が増えるほか、企業にとっても銀行の貸し出し金利の上昇で資金調達が一段と困難になろう。国債の利払い費が増えるのも確実で、わが国の借金体質はさらに強まっていく。


 政府は債務削減に向けた具体的な対応策を早急に示さなくてはならない。無責任な対応の“ツケ”を被るのは、紛れもなく国民なのである。
(公明新聞:11月11日)